2013年04月20日

願い、叶えて

はい、少しずつ仕上げていってようやく完成しました。久しぶりの着衣濡れのSSです。
やっぱり「服を着たままなのに濡れる(濡らされる)」というシチュは面白いですね(理解できない方はごめんなさいですが、ここに来る方なら大丈夫と信じています)。久しぶりに長めの話になりました。
前置きはさておき、まずはどうぞ。

……

「準備はいいですか? そろそろ始めますよ」
その言葉に、朱里(あかり)は小さく肩を震わせた。ゆっくりと、その方向を見ると自分と年の変わらなそうな巫女が、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。その手に持っているのは古い木製の桶。
表面が濡れて、水がしたり落ちているのは、汲んだばかりだからだろうか。
「ち、ちょっと待って。もう少しだけ……」
「儀式を止めるなら今の内です。ただ、最初にご説明した通り、前払いした分は戻ってきません」
「……」
朱里は大きく肩を落として、自分の姿を確かめた。長めの髪をリボンでポニーテールにして、全身をクリーニングから返ってきたばかりの綺麗なブレザー制服で包み込んでいる。神社の奥に設けられた特設の儀式の場を踏みしめるのは、ソックスと履き潰した古いローファーに包まれた足。
いつもなら履かないようなローファーを選んだのは、これから行われる儀式で駄目になるのが分かっていたからだったが……。
いざとなると駄目ね……。完全に制服を着たままびしょ濡れになるんだから。いくらこの制服が丸洗いできるからって……。止めればよかった。
今いる神社は<願いが叶う>という評判が密かに流れていた。とある特別な儀式をしてもらえば願いは叶うというのだが、前払いした料金は決して安いものではなかった。欲しい物を数ヶ月我慢しなければならない程に。
「戻ってこないんだよね……」
「はい。ここまで準備してから中止ではこちらも困りますから」
そう言っているわりには、巫女は楽しそうだった。からかわれているような気がして、朱里は少し腹が立つ。
「……わかったわよ。やるわ。決めた」
「はい。ではさっそく始めます。貴方の願い事が叶うように心を尽くしてやらせてもらいます」
叶えて欲しいわね、本当に。地元の国立大学に入りたい。入れれば凄く楽になるんだから。私立だったら大学自体諦めないと……。
視野の隅で、白と緋色の姿が動いたような気がした。そう思った瞬間、朱里は真正面から水を浴びせかけられていた。もちろん、今朝下ろしたばかりのブレザー制服目掛けて。
「あっ……!」
声を上げた時には既に遅かった。紺色のブレザーは一気に水を吸い込んでずっしりと重くなり、チェックのスカートからは水滴が落ちてローファーに落ちていく。中に着ているブラウスもびっしょり濡れて肌に張り付くのを感じる。
き、気持ち悪い……。夕立にあったみたい。びしょびしょ……。クリーニングから返ってきたばかりなのに……。
「始めると言いましたから始めさせてもらいました。どうします? 止めますか?」
空になった桶を手にした巫女は相変わらず嬉しそうだった。もしかすると、この状況を楽しんでいるのかもしれない。
「や、止めないわよ! 続けないと意味が無いんでしょう!?」
「はい。全身を水で浄めれば浄める程、願いは叶いやすくなります。まあ、最低十回は繰り返したほうがいいかと」
「わかったわよ! とっととやって!」
この場から逃げ出したい衝動を抑えて、朱里は言い切った。ここまできたら止めるわけにはいかなかった。
「わかりました。では続けます」
無邪気な笑みさえ浮かべて、巫女は儀式を続けた。儀式の場の隅にわざわざ設置したビニールプールから水を汲んでくると、今度は真横から浴びせかけてくる。冷たくないのは幸いだったが、綺麗なブレザーはさらに濡れて色が変わっていく。
なんていうか……。ひどい。こんな事になるなら止めればよかった。お小遣い使ったのに制服びしょ濡れにして……。なにしてんだろ、わたし。
「はい、お清めします!」
威勢のいい掛け声と共に、何度も何度も桶に満たされた水が朱里に襲いかかった。正面、横、背中、足元……。まんべんなく浴びせかけられて、束ねた髪すらも水滴を垂らすようになる。もはや、自分が制服姿なのも忘れそうな程だった。
「はい、これで十回目!」
突然、巫女の声がずっと近くから聞こえた。あっと思った時には遅かった。十回目の<お清め>はなんと、頭からだった。ついに全身、濡れていない場所は無くなり、朱里は呆然とした面持ちで水を滴らせる自分の姿を見つめる羽目になる。
「どうします? まだ続けますか?」
空の桶を手にした巫女もまた、白い着物と緋色の袴の一部を濡らしていた。二の腕どころか胸元付近まで透けて見えることに気づいて朱里は息を呑んだが、当の本人はまったく気にしていなかった。
「えっと、その……」
「茉莉(まつり)、調子はどう?」
突然、やや少し低い少女の声が耳に届いた。濡れた髪を気にしながら振り向くと、お揃いの巫女装束姿の少女が歩いてくるのが見えた。その手に持っているのは……。
「ん、今十回終わったとこ」
「十回も浴びたのね。久しぶりに根性のあるお客さんじゃない」
「だから今続けるか確認してたところ……って、綾香(あやか)お姉ちゃんもしかしてやる気満々?」
「もしかしてしなくてもやる気満々よ!」
綾香と呼ばれた巫女がやけに自信を込めて言い切るのと同時に。いきなり、朱里の制服を水の衝撃が襲った。綾香が手にしていたホースの先をいきなり向けてきたからだった。
「うわっ、お姉ちゃん急にやらないでよ〜。濡れちゃったじゃない」
「鈍くさいから悪いの。それ以前にもう濡れてるじゃない」
「ゆっくり濡らした方が面白いのに」
「私はね、豪快に濡らしてしまう方が好き!」
言葉は無邪気だったが、綾香の行動は酷いものだった。何もできずにいる制服姿の朱里の全身に、思い切りホースの水を浴びせ続けたからである。もはや上着もチェックのスカートも水の通り道となり、腕で防ぐのも虚しくなるほどだった。
「これも……儀式の続き?」
何が起こっているのか分からない様子で、朱里は問いかける。
「もちろんです。十回のお清めでも満足できないなら、もっと派手に浴びてもらいます。もっとも、一度濡れたら関係ないですけどね」
「そうだけど……」
「制服姿でチャレンジするお客様は久しぶりなんで私たちも楽しみにしてたんです。最近は濡れるのも嫌がりますからね。そんな事をしたら水神様に見放されてしまうのに」
「水神様に……あっ!」
一段と綾香が近づいてきたかと思うと、なんとホースの水を首筋から流し込み始めた。まるで優勝祝いにビールかけをされているかのようだったが、ブラウスや素肌すらも川のように水が流れていくのはやはり気持ち悪かった。
「いい顔して濡れますね。これならきっと、貴方の願いは叶います。茉莉、遠慮しなくてもいいわよ」
「うん。こうなったらお姉ちゃんも濡れちゃえ!」
さらに桶に汲まれた水が正面から襲いかかってきた。朱里はとにかく、綾香の巫女装束もそれだけでかなり濡れてしまったが、気にしているようには見えなかった。
それどころか、とうとう頭からホースの水を浴びせかけてくる始末だった。
「やっぱり楽しいわね。こういうのって」
巫女装束や髪から水滴を落としながら、綾香はうっとりとしたようにつぶやいた。
「水は全てを清めてくれる不思議な存在。それを全身で受け止めると、何か違ったものが見えてきませんか?」
「……」
「この神社は昔から水神様をお祭りしています。私たち姉妹も水を受けながら育ってきました……って、茉莉! 人が話してる時に浴びせないで!」
「お姉ちゃんばっかりずるい」
「もう、終わったら覚えてなさいよ」
「お姉ちゃん、営業スマイル忘れてる……」
「あ、済みません。どこまで話したっけ? えっと……」
「……馬鹿にしないでよ」
「え?」
「あ、まずいかも……」
「わたしはあんたたちのおもちゃじゃない!」
そう言い切った瞬間、朱里の心の中で何かが音をたてて切れた。びしょ濡れになった髪を大きく揺らしながら綾香の両肩を掴むと、そのまま抱きかかえるようにしてある場所目掛けて投げ飛ばす。そこは……茉莉が何度も水を汲んだ大きなビニールプールだった。
凄まじい水音と共に、派手に飛沫が舞い上がった。
何もできないまま巫女装束姿の少女が背中からプールに突き落とされたのだった。
「何するのよ! 急に……」
全身のほとんど水中に沈めたまま、綾香は抗議の声を上げた。白い着物は水を吸い込んで肌に張り付いていたが、よく見るとその下には地味な色合いの水着のラインが浮かんでいる。
予めこうなることを想定していたかのようだった。
「お姉ちゃん、怒っても仕方ない……って、ちょっと待って、まさかわたしも……」
「あんたも同罪!」
プールの底に座り込むようにして体を起こした綾香だったが、今度は妹の茉莉がプールに突き飛ばされたので、それを正面から受け止める羽目になった。白と緋色と黒髪が織りなす不思議な模様が水中に広がる。
「どんな気分? 人に散々水をぶっかけて」
朱里は怒りで我を忘れていた。既に完全に水を吸い込んだローファーとソックスに包まれた足を無造作にプールに入れると、その場に仁王立ちになる。
「もちろん、儀式の料金は返してもらうわよ。あと、クリーニング代と損害賠償もね。高くつくわよ」
「ふぇーん……。びしょびしょ……」
朱里の言葉を無視して、茉莉が体を起こした。白い着物から盛大に水を流しながら、ぺたんと座り込む。やはりというべきか、妹の方も巫女装束の下に水着を着ていた。
「お姉ちゃんやり過ぎだよ。いっつもこうなんだから……」
「茉莉だって調子に乗ってたじゃない。でも……」
長い髪を肩の後ろにやって、綾香が微笑んだのはその時だった。水を滴らせながら姿勢を正すと言い切る。
「儀式は大成功です。願いは間違いなく水神様に届きました。お客様の願いはきっと叶います」
「なっ……。馬鹿にしないで! そうやって料金を踏み倒す気!?」
「いいえ。ならば貴方は今、どんな気持ちですか?」
「怒ってるわよ。ぼったくり巫女姉妹にね」
「そうでしょうね。普通なら絶対にやらないですよね。私たちをプールに突き落とし、貴方もプールに飛び込んでいる。制服姿のままの行動とは思えません」
「びしょ濡れにしといてその言い草はなによ!」
「なぜ私たちがびしょ濡れしたのか、分かりますか?」
「え?」
突然、以外な方向から反撃されたような気がして、朱里はきょとんとなった。改めて、自分の姿を確かめる。制服を完全に着込んだまま、少女はプールの中に立っていた。
「貴方を騙したことは深くお詫びします。ですけれど、願いなんて神様にお願いしても簡単には叶いません」
「まあ、そうだけど……」
「貴方は確かに感じたはずです。私たちに散々水をかけられた時、それをはね返そうとする力を。その事を忘れないで欲しいのです」
「……どうなってるの?」
「ん、理屈はよく分からないけど……」
ぴょこんと茉莉が立ち上がった。びしょ濡れになった巫女装束を気にするふうでもなく言葉を続ける。
「わたしたちが水をかけまくって、それに反発した人は絶対に願いが叶うの。もしかすると、水神様が眠っている力を呼び起こしてくれるのかも」
「本当に……」
「もちろん。昨年も似たような目に二回ぐらい遭ったけど、いずれもちゃんと願いは叶ったんだから。後で菓子折り持ってお礼を言いに来たんだよ」
苦し紛れの嘘にはとても思えなかった。落ち着いて思い返してみると、激情に駆られた時、心の中で何かが目覚めたような気がしたからだった。
スカートが水に沈むのも構わず、朱里はその場に膝をついた。なんだか怒ったことが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「何とか……納得してくれたみたい」
「こうしないと儀式は成功しないんだから楽じゃないわね」
「うん。わたしたちも結構不幸だよね」
「バイト代もらっといて贅沢言わないの」
「……あんたたち、仲いいわね。本当にただのバイトなの?」
「まさか。わたしたちはこの神社の宮司の娘よ。ちゃんと神様にお仕えしてるんだから」
「そうなんだ……」
激しい感情がすっかり消えたのだろうか。朱里は妙にぼんやりしていた。それどころか、袖すらも濡らしながら水の中に両手を入れると制服に包まれた全身に浴びせ始める。
水神の加護を一段と得るかのように。
「儀式は終わりましたが、特別に水をかけますか? 間違い無く願いが叶うように」
「ん、お願い。なんか……楽しくなってきちゃった。制服姿なのに水遊びなんかしてるんだから」
「あ、わたしも手伝う手伝う」
……。
こうして、制服姿の少女と二人の巫女は飽きるまでプールの中で水遊びを続けた。
その効果もあったのだろうか。
満面の笑みを浮かべた朱里が、第一志望の大学に合格したことを友人となった巫女たちに告げたのはそれから9ヶ月後のことだった。

……
制服少女と巫女姉妹の水遊びは絵になりそうです(笑)。綾香・茉莉の姉妹はまた書いてみたいなーとも思っています。二人共、着衣のまま濡れるのは大好きですからね(笑)。
posted by 戦国銀 at 08:49| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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